小説作法 (ISBN:4901142674)

スティーブン・キングが説く小説技法の本。なにが面白いって、まず構成が面白い。「第一章 小説を書く心構え」「第二章 読ませる文章の書き方」といったマニュアル的な堅苦しさが無い。なにせいきなり、100ページ以上の自伝を読ませる「生い立ち(105ページ)」からスタートだ。で、文章を書く動機について書いた「文章とは何か(6ページ)」、文法について説明する「道具箱(35ページ)」を挟んで、後半には自分の仕事論を「小説作法(135ページ)」に延々と書いている。
「ハッ!何を自分語りなんて読ませるんだか」と思いつつも手にとってみると、これがとても面白くて引き込まれてしまう。自分の話をこうも面白おかしく他人に話せるなんて、という驚きとともに。やはり当代随一の書き手は違う。恋の話でもなければ、他人の自分語りなどまず間違いなくつまらないものなのに。
エンタテイメントになっているからといって、勉強にならない、なんてことはない。彼の手練手管に引きずり込まれている間に、彼の小説に対する考え方やノウハウが、どんどん頭に叩き込まれるのだ。面白いだけに、なかなか忘れないだろう。サプリメントガリガリかじるよりも、ちゃんと野菜や肉を食べたほうがずっと美味しいし、また栄養になる、ということだ。無味乾燥な状態で、ただ並べられたテクニックを覚えようとしても、そうそうモノになるもんじゃない。
念のために書いておくと、この本を読んだからといってすぐに文章能力が上がるわけではない。沢山読んで沢山書く、という繰り返し抜きに成熟しない能力であることは、本文中にも繰り返し書いてある。インスタントに効果を求めるのでなければ、この本は十分に役に立つ。ビジネス文書マニュアルの、しかめつらしい解説とおさらばするには、絶好の一冊だ。