パーク・ライフ (ISBN:4163211802)

吉田修一はこれで2冊目。芥川賞受賞作品だそうな。「東京湾景」より僕はこっちのほうが好き。
主人公は、香水などを扱う会社の広報兼営業をしているサラリーマン。ふとしたきっかけで、日比谷公園にいつも来る「スタバ女」と知り合い、交流を深めてゆく。
隠すものが無い、ということを必死で隠そうとする「スタバ女」は、自分の心を相手に対して開かない。その代わりに、いつも他人の振る舞いを見ている。つまり、彼女は一人遊びがお得意なのだ。
片思いの恋を想い続けて、いつまでたってもちゃんと恋愛が出来ない主人公もまた、一方通行の世界の住人だ。彼らだけじゃない。他の登場人物もみな、そんな性質を持っている。別居を解消できない夫婦や、誰もいない部屋にやってきて一人で楽しむ主人公の母親、売る気も無い商品を並べる雑貨屋・・・。そんな中、「スタバ女」は、積極的にコミュニケーションをとる主体へと、変わりはじめる。
ふつうのラブストーリーだと思って読み進めてしまうと、ラストに突き放されてしまう。とっても緻密で粋な物語だ。
ちなみにこの本は、表題作も含めて2つの中篇から構成されている。2番目に収録されている「flowers」は、大人の悪意とエゴがおりなす物語。「パーク・ライフ」ほど緻密じゃないけど、調和が取れているし、インパクトがある。なかなか記憶から消えないダークホース的な作品だ。