ホリエモンはやはり、一流のIT経営者だった。

ITProへの登場から1日足らずで600ものはてなブックマークを集めてしまったホリエモン
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20080910/314505/
http://b.hatena.ne.jp/hotentry?mode=daily&date=20080912
いやこの記事は本当に面白くて、IT業界に勤めている人間なら必読、というほど卓見に満ちているんですが、その中でも特に衝撃だったのが次の下りでした(強調部はこちらでつけたもの)。

 Googleが秀でていたのは,検索エンジンに対する考え方です。Googleというのは「インフラ屋」,あるいは「サーバー屋」なんですよ。つまり,いかに安くサーバー機を調達し,そのサーバーを大量に置けるデータセンターを構築できるかというところに注力したことです。広告ビジネスで重要なのは,いかに速く検索結果と広告を表示できるかというスピードです。僕はGoogleが成功した真の理由は,そこにあると思います。

 当時,僕は検索エンジンというのは,どれだけ多くのクエリー要求に対して1台のサーバー機で処理できるかということばかりが重要だと考えていました。しかし,実際は1台のサーバーで最低限の同時接続をさばき,規模の拡大と共にサーバーの台数を増やしていった方が効率的だし,スピードも速いに決まっている。

― では,それをやればよかったのではないですか。

 自分でもなぜそれをやらなかったのかは今でも分からないのですが,おそらく,こだわりすぎていたんだと思います。自分がダメなプログラマであるというコンプレックスが邪魔をして。プログラマはサーバーを1台増やしたから速くなったというところではなく,自分のプログラムによって速くなったと言いたいところがあるんですよ。そうじゃないと,誰も誉めてくれませんし。Googleの思想はむしろ,プログラマとしてはスマートではないんです。

沈黙を破ったホリエモン,ITを語る(3ページ目) | 日経 xTECH(クロステック)

つまり、Googleの本質は

  • データセンター構築に注力したインフラ屋だった。
  • プログラマとしてはスマートではない思想を徹底的に実践できた。

だった、と語っている訳です。
2000年前後、ITバブルの到来と共に雨後のタケノコのように、検索エンジンをはじめとする沢山のサービスが登場しましたが、結局の所、ほとんどが死滅してしまいました。しかし、Googleはこのバブルの時期もインフラの力を蓄え続け、その崩壊後に一気に頭角を現してきました。気がつくと誰もが届かない程先に行ってしまっていて、マイクロソフトもヤフーも追いつけない程の次元に到達してしまっていた訳ですね。
今から振り返ってみれば、「Googleはナンバーワンプレイヤーで、才能が集まっているんだから正しい道を進む事ができた」ぐらいにしか思えないかもしれません。ただ、インフラ能力を高めるだけなら、それこそIBMやNTT、マイクロソフトのような既存の巨大企業が得意とする領域のはずではないですか?普通に考えると、Googleのようなベンチャー企業が普通に戦って勝てるはずは無いんです。何しろ技術の蓄積が圧倒的に違いますから。人的にも事例的にも知的財産的にもね。そこで、鍵になってくるのが、「プログラマとしてはスマートではない」Googleの思想だと思うんです。
一般に、プログラムにより構築されるもの(ソフトウェア商品や、Webアプリケーション)は、未熟なプログラミングを行う事で、あっさりと100倍とか1000倍といったレベルで遅くなります(それ以上に遅くなる事も、もちろんあります)。未熟なプログラミングがどのようなものか、単純な例で言うと、小学校で、全生徒に始業時間を知らせる際、チャイムを鳴らせば良いところを、校長先生がいちいち生徒全員の席を回って「時間ですよ〜」と伝えたりするようなものです。命令文の集積であるプログラムでは、そのような無駄が実に簡単に発生します。だから、プログラムの改善を行うことで、無駄を減らして行く必要があるのです(メモリの使い方など、チューニング項目は他にもまだまだあります)
これは、逆に言うと、プログラムの見直しにより、10倍、100倍と処理性能は向上していく、ということでもあります。実際には、ある程度の所で頭打ちにはなるのですが、それでも、まだどこかチューニングでよくなるんじゃないかな〜、という気持ちは頭の片隅に残るんですね。大抵のプログラマーは、程度の差はありますが、そういう事を考えています。
だから、そう簡単にハードを増設すれば良い、という考えに至らない。ソフトウェアのチューニングと違い、ハードウェアを増設するには即まとまったお金がかかりますから。だがそれをGoogleは、やってしまった。実際には、やってしまった、というレベルでなく、そこにリソースを集中投下した。そこが、競合他社との決定的な違いだったのです。
ホリエモンは、引用箇所のちょっと前で「技術力というものを評価する時に,僕はGoogleと当時のライブドアは大して変わらなかったと思います。」としゃべっています。これはこれでとても面白い、と思いましたが、これを読んで考えた僕の意見はちょっと違いました。ハードウェア増設による処理効率向上が、ソフトウェアチューニングのそれを上回るラインを、把握していたに違いないGoogleの技術力は、少なくともその一点により当時のライブドアよりも凄かった、と思います。
それにしても、技術的/経営的にGoogleの本質をズバっと語ってしまった、というこの一点で、ホリエモンはやはり一流のIT経営者(もしくはビジョナリー)だったんだ、という事がわかります。ここまでGoogleの本質を突いた文章を、まだ僕は読んだ事がありません。業界がこの人を失ってしまった事により失ったものは、やはりとんでもなく大きかったのだ、と思わざるを得ませんね。