IT業界では、もともと「モラル」を保つのは難しいのではないか?

危機に瀕するIT業界の「モラル」、というITProの記事があった。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20060529/239294/
IT業界のモラルが低下しているとかいう話。定量的データは特になし。定性的データも記者個人の主観と一部の極端なインタビュー。まあITProだからしょうがないか。
こんなことを書くのもなんだけど、「モラルを疑うような話」が多くなるのは、IT業界の構造を考えると、しょうがないんじゃないか、という気もするのだ(ちなみに、以下の話はIT業界が嫌いだから書いている、というわけじゃないですよ。念のため)。

  • 参入障壁が低く、モラルゼロ・スキルゼロの人間でも簡単に出入りできる。
  • IT業界の成果物、つまりソフトウェアは価格をつけるのが難しい(形が無い、量的に測るのが難しい、コピーが容易、などの理由で)。このため、「なるべく安いコストで相手をこきつかいたい」発注者と「なるべく高い利益を出しつつ、仕事をせずに済ませたい」ベンダーという構図になりがち。結果として、「相手をいかに言いくるめるか」という一点が、技術力より、サービス力より、重要になってしまう。
  • IT業界には、かなり厳格なヒエラルキーがある。一部例外はあるが、階層の高いところから低いところに仕事が流れるため、階層が高いほど無理が通る。往々にして、無理な納期・コストの要求も通る(当然現場は疲弊する)。
  • 非正社員として働くメンバーは、開発プロジェクトの歯車としての役割しか期待されないことが多い。結果として、情報へのアクセスは制限され、劣悪な労働条件で働かされることも少なくない(参考:オフィスに関する差別の話過酷な下働きPGの話)。

モラル、という単語は抽象的なため、結論が「今のほうが酷くなっている」という観念論に陥りやすくなってしまうのが問題だ。少なくとも、モラル低下の原因は、そこらじゅうにあるのだから、記者の基本に戻り、一つ一つについて具体例を追ってちゃんと記事を書くべきなんじゃないか、と思う。