虚業としてのライブドア、実業としてのライブドア

http://d.hatena.ne.jp/D-kid/20060129
はてブ経由。最近ライブドア内外の技術者を中心に、ライブドア擁護のエントリが増えていることについての異論。
ライブドアが、マネーゲームで膨れ上がった虚業ベンチャーの象徴であることは、いまさら誰も否定しないと思う。
ただ、今のメディアからは、「ライブドアは、いわゆる虚業企業であって、ITに関しては、見るところのない企業だ」という非難が多く出ているのも確か。これに対して、「それは違うよ、マネーゲームは評価するべきじゃないけど、技術力には見るべきものがかなりあるよ」というのが一連の技術者エントリの趣旨だ。
若干かみ合ってない、といえばそれまでなのだけど、IT技術者としては、ライブドアの技術サイドを擁護する側に回りたくなる。
以下は、アクセス数、という観点からその技術面について話をしたい。この一連の騒ぎで、ライブドアポータルサイトのアクセス数は、かつて無いほどの量になっているはずだ。「あいつらどうなっているのよ」というスケベ心でアクセスするユーザは、間違いなく多いから。でも、僕が見た限りでは、アクセス量の多さでサービスがとまることもなければ、処理速度が落ちることもなかった(と記憶している)。これは実は凄いことなのだ。スーパーで例えるなら、セールの無い時期に、セールの時期をしのぐお客さんが来たにも関わらず、客を完璧にさばききり、全くトラブルを起こさずに済ませたようなものだ。流通業界には詳しくないので推測になるが、このようなサービスを実現するには、常日頃十分な店員を確保し、かつ徹底的に教育・訓練を行わなければ実現できないはずだ。ITの世界でも事情は同様で、大量の処理をさばくだけのサーバ能力や、運用スタッフの技術力を確保しておかなければ、このような処理を顔色一つ変えずにさばききることは出来ない。
つまり、今回、ライブドアショックに寄って引き起こされた過負荷をしのいだポータルシステムは、ライブドアが人の目を引くコンテンツだけではなく、いわば縁の下の力持ち的なITインフラ部分に、きちんと投資をし、技術を蓄積してきたことの証左なのだ。東証システムの問題を考えれば、この意味の重みがはっきりするのではないか。
東証システムは10年前のシステムがベースで、想定外のトラフィックを裁ききるほどの余力が無かったため、海外から酷評されたという。実際には、株式会社でない東証には資金繰りの面で多額のシステム投資を行うのは容易でないと言われているし、要求される堅牢性やシステムの複雑性のレベルのケタが全く違うためしがらみの少ないWebポータルシステムのようにはいかないなど、一概に比較は出来ない。だが、「想定外の処理をこなせるインフラを持っている」という事は、実はITの世界でも並大抵のことではない、ということに想像力が及んでもよいのではないか、と思う。
少なくとも、「ポータルも虚業の一部」というスタンスの企業に出来るレベルのインフラではなかったことは、いい加減知識として共有されてもいいと思う。

(以下余談)
個人的には、ライブドアターボリナックスを買った時点で、「うわ面白そうなことやってるな」という印象を持ったことが忘れられない。多くの企業は、Linuxでビジネスをする際、使うディストリビューション・パッケージがRedHatとかSUSEに偏りがちになるので、ターボリナックスを買収することはリスクになりうるからだ(断言できないけど、SRAはそのためにターボリナックスを売った、といっても説得力があるくらい)。少なくとも、FreeBSDをベースとするシステムを持ってるライブドアは、RedHatSUSEに頼らなくてもいいですよ、と言える企業であったんだろう。
多くの社員の給料がびっくりするほど低く抑えられていたり、せっかく手に入れた事業を育てているのか疑わしいことが散見されたり(フジテレビとか、ターボリナックスとか)、パクリのサービスが多かったり(mixiとか、flickrとか、はてなアンテナとか)するため、個人的な心情としては、ライブドアのことはどうしてもプラスに評価はできない。これだけ大規模な事件を引き起こしたため、企業としての輝きも急速に失せていく可能性が高い。だけど、面白いものに目をつけるスピードと、技術力については、今でも嫉妬心が消えないなあ、と思う。